PASSION UNDER THE GLASSES―眼鏡の下の情熱―(前編)




高層建築の、超高級ランクのホテル。
その中でも最高のスイート。
部屋の外を見れば、都会の空には星は見当たらない。だが天上の星に変わって、
幾多の地上の明かりがまるで満天の星空の如く、夜を彩っていた。

しかし、素晴らしい夜景を前にした青年、の興味は全くソレに向いていなかった。


ザアアアアア


 細い水音―――シャワーの音が、今の深紅の青年の最大の興味対象だ。
シャワーを使ってるのは・・・自分の唯一。
自分の唯一絶対たる少女―――その存在に覚える昂ぶりに較べれば、
どんな素晴らしい光景も、刺激に満ちた娯楽も価値をなくす。
そして、自分の胸をただ少女―――ラエスリールという存在のみが彩る。
・・・・・少女には自分がそんな影響を及ぼしている自覚など皆無だというのに。

まるで、初心な少年のような己に、闇主は苦笑する。


ザアア・・・


不意に、水音が途切れた。
胸の昂ぶりが速度を増す。体温が上昇する。しかし、外面だけはクールなままに保つ。
すると・・

ギィ・・・

小さくドアの音だけたてて、最高の見晴らしのスイートに新たな人物が現れる。

「遅かったな・・・ラエスリール」

自分の昂ぶりを艶めいた微笑に隠して、いつもの愛称でなく、『ラエスリール』、と低く、躰に響く声で呼ぶ。

「待たせて・・・すまない・・」

その躰を隠すのが、バスタオル一枚なせいか、それとも闇主の視線や呼ぶ声に混ざる艶のせいか、
彼女の声は小さく羞恥に消えそうだ。
湯の熱を残した肌は、いつもは真っ白なのが全身薄紅に染まって、仄かで初々しい艶を醸し出している。
恥じらいにきつく巻いたタオルは、彼女の女神像のような綺麗な肢体のラインを露にしていた。
ゆったりと―――見かけ上はソファに横たわり、極上の赤ワインのグラスを揺らしていた闇主から、
余裕の微笑みが・・・・消えた。


カタン


ワイングラスが、サイドテーブルに乱暴に置かれた。
優雅な仕草で、ゆっくりとソファから立ち上がる。
ラエスリールの方は入り口近くで俯いたままだ。

「そんな所に突っ立ってないで来いよ 」

「 だっ・・て・・・」

「来いよ・・・・ここには二人だけだ。・・・・だから恥らう必要なんざ無い」

キラリと力強く輝く深紅の眼差し。それは野生の本能に煌いて、極上の獲物を狩ろうと見据える。
眼差しに囚われた少女の躰がビクンと揺れる。

「来い・・・・ 」

力強く言い切って、長く美しい指を己の眉間にやる闇主。
そして、彼の指が普段は決して外さない眼鏡のフレームに触れる。


カーーーンッ


そのまま、眼鏡を部屋に投げ捨てると、澄んだ音が響く。
眼鏡は、一瞬夜景に似た煌きを放って、床に落ちた。


「 ・・・いつまでそこにいる気か?」
眼鏡を外した、素の深紅の眼差しがラエスリールを射抜く。
今までの比ではない、躰と精神を一緒に射抜く鋭い矢のようなソレ。
まるで深紅の業火が彼を包んでいるようだ。

「焦らすつもりなら生憎だ。・・・・俺は待てる気分じゃない」


ふらり


視線に操られたように、ラエスリールがおぼつかない足取りで闇主に向かう。

ドキン ドキン

自分の心臓の音が、静かな部屋では酷く大きく聞こえる。
・・・・・・ラエスリールだけでなく、闇主のソレも熱くたぎる感情に大きく脈動していることに、
彼女は気づいていない。


ドキン


ラエスリールの心臓が一際大きな音を立てたと同時に、闇主の正面に辿りついた。

「ラス・・・髪濡れてるぞ?」

「あ・・・あんまり待たせちゃ悪いと思って・・・」

「散々待たせておいて、今更だな」

くつりと笑みをもらして、サイドボードに置いたグラスを取る

「飲むか?」

「あ・・・ああ・・・」

緊張の所為か、いつもの真面目な彼女からは予想外に、素直にグラスに手を延ばす。

しかし。

「・・・闇主?」

飲むかと自分から言ったくせに、グラスから手を離さない青年を、思わず見上げる。
すると・・・目の前に・・・完璧としか言い様の無い綺麗な顔。
俯いていた時思っていた以上に近い距離に、ラエスリールの肌が湯の所為ではない熱に、鮮やかさをます。
そして、視線を下に辿ると少し肌蹴たシャツと緩んだネクタイの合間から覗く鎖骨と広い胸。
ラエスリールの頬と心臓が、かあっと熱くなった。
自分の・・・・バスタオル一枚の自分の前に、いつもはピシっ着こなしたスーツを軽く乱して、
男性美の極致のような美しい躰を覗かせた闇主がいる。
その事実が殴られたように強烈にラエスリールを圧倒する。
羞恥・・・そして未知の熱い衝動がラエスリールを掻き乱す。
それに翻弄されるのを防ぐように、闇主の手から強い力でグラスを奪おうと・・・・・
・・・・した瞬間、顎を上向かされた。
その反動で、花弁のような唇が軽く開く。その隙を見逃さず、グラスの中の紅い酒を煽った闇主。
―――唐突に重なる唇。そして流し込まれるのは紅い液体と・・・・闇主の情熱。
ごくんと、飲み下すと、熱い衝動と酒が躰中を犯し、彼女の理性を奪い、情熱の侵される。

「あ・・・あん・・しゅ・・この酒・・・強い・・」

口付けの合間に、自由の効かぬ躰を持て余しながら何とか言う。
すると、青年はクスリと微笑する。いつもの余裕に満ちたクールな彼―――眼鏡を外した、
素の深紅の眼差しに燃え盛る炎以外は。

「ただのワインさ・・・」

特別強い酒じゃない、とラエスリールの耳朶近くで囁きながら、緩みかけた自分のネクタイに手をやる。
同時に、上等な仕立ての自分のシャツも掴む。

「ラス・・・」

「闇主・・先生・・」

『先生』
それは呪縛。
彼らを禁断の関係に繋ぐ一言を、今、初めての情熱に侵されているラエスリールは、
敢て呟く―――未知への恐れゆえに。


シュ


ネクタイを解く音と、シャツを脱ぎ捨てる音がやけに鮮やかに響いた。

「 ・・・・・・『先生』だと?」

射抜くような眼差し。・・・・だが、それは次の瞬間には奈落まで飲み込まれそうに甘く誘う艶めきと孕んだ、
業火より熱いソレとなる。

「『恋人』だ 」

「お前は俺の女で、生徒じゃない 」

言い切って、ラエスリールを有無も言わさずに横抱きにする。

「・・・・・・・ただの生徒にこんなことすると思うか?」

「ごめん・・・・闇主・・・」

「解ればいい・・・・・・・・さあ・・レッスンを始めようか?」

「馬鹿!!・・・生徒じゃないんだろう!!? 」

「ああそうだ。・・・・『恋人』のレッスンだ」



紅い瞳が一際妖しい煌きを放つ。
・・・・それが、『レッスン』の始まりを告げる合図だった。
そして、闇主はベッドルームの扉を開いた。










前半終了♪
この先(裏展開にGOGOGO)が見たい方は同盟に入会してねvv

金庫室室長であらせられます、千尋さまから頂きました、眼鏡小説ですvvv
最高級ホテルのスウィートルームvそこから見える、地上の美しい星々よりも
彼の心を捕らえて放さないラスさまvそして、眼鏡同盟員としては、やっぱり眼鏡を外すシーンがvvvv
更にワインのシーンにどきどきとvvそのしかも二人の関係は(どきどき)vvでも、後編はごめんなさい、
会員の皆様のみの限定となってます(にっこりv)
二人のレッスンが気になる方は、眼鏡とスーツが好きって方はぜひぜひどうぞvお待ちしてますv


後記担当 ちな


2003/07/20